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- 足立 誠愛
クライアント満足を高めるチームの仕組み ~フィーチャーチームの組織づくり~
以前、「顧客志向の組織づくり」という記事で、弊社のNPS®をご紹介してから、約1年が経ちました。
ということで、弊社の最新のSQ(NPS®)スコアをご紹介します。
※オーリーズでは、 NPS®を「SQ(サービス・クオリティ)」と名付けて運用しています。
※NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。
自慢の実績です。
一貫した顧客志向の組織運営によって、高い推奨意向を獲得し続けています。SQは、私たちの存在価値を示すものであり、ミッション実現度を測るものでもあります。
私たちが高い推奨意向を得ている理由のひとつに、「フィーチャーチームの組織づくり」を挙げることができます。今回は、私たちの組織づくりの特徴についてお話します。
目次
オーリーズの組織は、顧客中心の「フィーチャーチーム」
私たちは、「フィーチャーチーム(機能横断チーム)」の形態で組織をつくっています。よく比較されるものに「コンポーネントチーム(機能別チーム)」があります。アジャイルソフトウェア開発の文脈でよく用いられる言葉です。
コンポーネントチーム(機能別チーム)
コンポーネントチームとは、特定の専門領域での役割を果たすことを目的としたチームです。
WEBサービス開発を例に挙げると、たとえば以下のような技術領域でチームを構成します。「チーム=特定領域の専門家の集まり」というイメージです。
- インフラチーム
- サーバーサイドチーム
- フロントエンドチーム
- QA(品質保証)チーム …など
フィーチャーチーム(機能横断チーム)
対してフィーチャーチームは、特定の成果物を生み出すことを目的としたチームです。チーム内に必要な機能を揃え、複数のコンポーネントにまたがり、チームで「成果物=動くもの」を作り上げることができるよう構成します。
両者の具体的な違いは後述しますが、コンポーネントチームとフィーチャーチームとの大きな違いは、チームおよびメンバーの役割認識です。
コンポーネントチームのメンバーは、主に「与えられた領域における役割を遂行する」ことをミッションとして行動するのに対し、フィーチャーチームでは、「アウトプット(成果物)とアウトカム(成果)を生み出す」ことをミッションとして行動します。
オーリーズにおけるフィーチャーチームとは?
私たちの高SQの秘訣は、このフィーチャーチームでの組織づくりにあります。
例を挙げてご説明をします。
たとえば、あるマーケティングの外部支援会社が、クライアントの支援において以下のようなチームを構成したとします。営業、コンサル、オペレーター、クリエイティブなど、マーケティング支援に必要な機能を揃えた、広告主にとって最適なチームに見えます。
しかし、このチームの実力を評価するうえで重要なことは、このチームが「どんな組織構造下で構成されているか」という点です。具体的には、「コンポーネントチームとフィーチャーチームのどちらで構成されているか」という点です。
その違いを見てみます。
下図は、コンポーネントチーム型組織(左図)とフィーチャーチーム型組織(右図)の違いを図示したものです。
青い点線は、組織内部におけるチーム構成です。この単位で、「ミッション」「評価基準」「リソースの管理権限」などの、チーム運営の核となる要素がまとめられています。これが、コンポーネントチームでは「専門領域ごと」で構成されているのに対し、フィーチャーチームでは「クライアントごと」で構成されています。このように、両者では組織内部の構造が異なります。
一方で、クライアントから見たときには(目のアイコン)、コンポーネントチームでもフィーチャーチームでも、支援チームとしての見栄えは変わりません。しかし、この違いは「チームの実力」、言い換えれば「クライアントを満足させる力」に影響します。
私たちは、顧客中心のフィーチャーチームで組織を構成しています。なぜ、フィーチャーチームによる支援は、クライアントの高い満足度を獲得することができるのでしょうか。
それを説明にするために、どんなサービスを提供すればクライアントは満足するのかについて考えてみます。
マーケティングの外部支援会社が、クライアントに満足をしてもらうためには、たとえば以下のようなことが求められます。私たちは、これらをSQの調査項目として設定し、各クライアントに満足度をヒアリングをしています。
- マーケティング目標の達成
- 専門性(知識とスキル)
- ミスの無さと正確性
- コミュニケーションや業務対応のスピード
- 仮説検証やフィードバックの量と質
さらに、これらの要素を抽象化すると、
クライアントの合理性(=目的に対して最短で最大の効果をあげること)に応えることができているか
といえます。つまり、チームの実力とは、「クライアントの合理性に応える力」だといえます。
そして、これを実現するために、チームにとって大切な2つのことがあります。
- できるだけ、情報の非対称性を小さくすること
- できるだけ、限定合理性を働かせないようにすること
組織開発文脈での「情報の非対称性」と「限定合理性」については、以下の説明が分かりやすいので引用します。
情報の非対称性
情報の非対称性とは、同じ目的をもった集団で、何かの情報を片方の人が知っていて、もう片方の人が知らないという状態です。
(中略)また、人は、正確に自分の考えていることを、他人に伝えることは不可能なので、何か情報を伝達しているつもりであっても、そこの非対称性が生まれます。
情報に非対称性があることは当たり前のことですが、しばしば、人は、自分の抱えている状態を他人も把握しているはずだと勘違いして、あるいは把握していてほしいという願望に基づいて行動してしまいます。
限定合理性
他人の利害が異なる場合に、それぞれが合理的な行動をとっても、全体は不合理な行動になってしまうこと
引用:エンジニアリング組織論への招待 ~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング
クライアントやチームメンバーの間で情報の非対称性が高いと、「目的達成=クライアントの合理性」のために望ましい選択が取れなくなります。また、関係者が、それぞれの合理性のもと行動をしてしまうと、クライアントの合理性からどんどん乖離をしてしまいます。
クライアントを満足させるためには、できる限りメンバー間の情報の非対称性を小さくし、限定合理性を働きにくくする組織設計がカギを握ります。
どんな問題が起きるのか
情報の非対称性と限定合理性によってチーム生じる問題を、例を挙げて説明します。
たとえば、あるクライアントが「デジタルマーケティングの施策では、デジタルの強みを活かし、細かく改善活動をおこないたい」と考えたとします。
それに対し営業担当は、「となれば、クリエイティブ単位で細かく効果を見るべきだ」と考えました。支援の満足度を高めて、競合会社からのリプレイスを防止することが一つのミッションである営業担当にとっては、評価を高める良い機会です。
しかし、広告運用スペシャリストは、クリエイティブ単位でトラッキングパラメータをつけることは、多大な労力がかることを知っています。同時に、クライアントの予算や施策状況を考えたときに、クリエイティブ単位で効果を見ることは、広告プラットフォームのデータを利用して検証する程度で十分であり、3rdパーティー計測ツールで検証することほどの価値は、決して高くはないことを知っています。
しかし、クライアントは、営業担当からの提案に対し「やらない理由はない」と考え、そのアイディアを採用します。案の定、パラメータ管理は広告運用スペシャリストに大きな負担を与え、作業ミスを誘引してしまいました。
このミスについて、営業担当は広告運用スペシャリストに対して、これ以上クライアントに迷惑はかけまいと、以降の作業について完璧を求めるようになります。すると、広告運用スペシャリストは、ミスを咎められたことで「自身の役割を大事にされていない」と感じ、営業担当に不信感を抱きます。同時に、これ以上自身の評価を下げたくないことから、今後、営業担当からの依頼については、より多くの時間を確保しようと考えます。
この問題を、情報の非対称性と限定合理性の観点で解釈すると、以下のようになります。
- 営業担当は、顧客満足を高めるためにアイディアを出した(営業担当の合理性)
- 営業担当は、パラメタ付与の労力と対価について、正しい情報を持っていなかった(情報の非対称性)
- 広告運用スペシャリストは、今後は工数を多く確保するようにした(広告運用スペシャリストの合理性)
- 広告運用スペシャリストは、顧客からの要望だと思い込み、議論の余地がないと考えた(情報の非対称性)
- 営業担当は、依頼した仕事がいつも遅いので、顧客対応を蔑ろにされていると感じる(セクショナリズムの高まり)
- 広告運用スペシャリストは、ミスを咎められ、役割を大事にされていないと感じる(セクショナリズムの高まり)
これによって、クライアントに届けられた成果は、「目的に対して効果の低いアクション」であり、さらに「遅い納期」という副作用がもたらされました。クライアントの合理性は「できるかぎり広告の投資効率を高めたい」だったはずなのに、です。
この問題を、単に「個人(この場合、営業担当)の知識不足」だけで片付けてしまうと、チームは強くなりません。個人の知識不足による問題は、置かれた環境や状況によって変化する相対的なものです。どんなときも、誰にでも、知識不足による問題は起こり得えます。それがクライアントの不利益へと転化されないように、組織構造をデザインする必要があります。
なぜ、フィーチャーチームは強いのか
フィーチャーチームでは、情報の非対称性と限定合理性の発生しにくい構造をつくることができます。結果として、上記のような問題を回避しやすくなります。
先の例では、フィーチャーチームであれば、以下のような結果になることでしょう。
- 広告運用スペシャリストは、まず「仕事の目的」を確認する(目的の理解)
- 依頼された仕事が、目的に対して効果的なものなのかを客観的に判断する(限定合理性の低下)
- 目的に対して効果が低いことを伝え、スペシャリストの観点から代替案を提示する(情報の非対称性の低下)
この違いは、チームメンバーの仕事の役割認識に起因します。
コンポーネントチームは「特定の専門領域での役割を果たすことを目的としたチーム」であるのに対し、フィーチャーチームは、「特定の成果物を生み出すことを目的としたチーム」です。
フィーチャーチームのメンバーは、自分の仕事が「領域」にあるのではなく「成果」にあることを理解しています。「目的にフォーカスし、成果重視の行動を取る」という行動原則を持っています。ゆえに、依頼された業務の上位目的に目を向け、クライアントの合理性に対して最適なアプローチを検討し、提案することができます。これは、知識やスキルの問題ではなく、役割認識の問題です。
このように結論づけると、「目的志向であれ」とか「オーナーシップを持て」といった、ビジネス精神論のように聞こえますが、ある側面から見れば、その通りです。なぜなら、目的志向やオーナーシップといった行動特性は、組織の文化によって形成されるものでもあり、それらの行動特性が「一人ひとりの常識・当たり前になっているか」という心理状態がこそが重要だからです。
そして、その文化・思考様式をつくるためには、組織構造の設計が肝になります。マネージャーが口酸っぱく指導したり、研修をしたりして根付かせるものではなく、そのような行動を取ることで、クライアントやチームメンバーの幸福度が上がるような組織構造をつくり、主体的な行動を誘引し、文化にまで昇華させていくのです。
オーリーズのフィーチャーチーム
オーリーズでは、チーム単位で主要媒体の広告運用能力を完備し、分業を排除します。全員がマーケティングテクノロジーのスペシャリストです。チーム内に「ミッション」「評価」「リソース管理権限」などの、チーム運営の核となる要素をまとめ、統一・完結する設計になっています。
そして、もっとも重要なことは、このチームおよびチームメンバーの担っているミッションです。売上でも、粗利でも、メディア取引高でも、受注・失注率でもありません。ただひとつ、「SQを高めること」です。
「フィーチャーチームという組織構造」×「SQ向上というミッション」の組み合わせによって、メンバーは「仕事の目的=クライアントを満足させること」にフォーカスできるようになります。
これが、私たちの高SQの秘訣です。
さらに、チーム間で各チームメンバーのリソースを共有することで、チーム固有で発生する情報や文化を流通させ、チームごとの偏りを無くすことを狙います。
でも、フィーチャーチームの運営は難しい…
…と、フィーチャーチームの利点ばかりを話してきましたが、もちろん、これを実現するためには、たくさんの課題があります。
例えば、こんな課題。
- 専任化しないため、ナレッジ・ノウハウが分散しやすい
- 状況に応じて役割を横断するため、分からないことに出会ったり、効率の悪いことをしてしまうリスクが高い
- 特定領域での情報蓄積や品質向上に取り組みづらい …など
また、私たちはまだ40人満たない組織(20年3月時点)なので、組織がコンパクトだからできるている組織形態である、とも言えます。組織が大きくなれば、また違うレベルの課題が生まれてくることでしょう。
これらの課題に対して、私たちは、フィーチャチームを実現するための行動指針をつくったり、いくつかの知識共有の仕組みを用意したりするなどして、難点を乗り越える努力をしています。フィーチャーチーム運営の難しさと、そのための仕組みづくりは、また別の機会でお話できればと覆います。
以上が、オーリーズの高SQの秘訣です。フィーチャーチーム型組織を通じて、顧客を大切に想い、顧客と向き合うことのできる環境づくりを目指していきます。